閑散としたホームから見えるのは真っ白な雪景色。朝の光がその白に反射してきらきらと輝く。そしてどこからともなく雪解けの音がちろちろと響きこの静寂さをさらに際立たせている。
ここ新潟は数日に渡る大雪で完全に交通がストップしている。今日は久しぶりの快晴だが、復旧するのはまだだろう。手持ちぶさたな様子でぼーっとベンチに座るのは三人。いや、一人は蕎麦を食っているか。
時折ずるずると蕎麦をすする音がこの景観をぶち壊す。暇すぎてこの景色を叙事的かつ叙情的に表現するというジャンルを切り開こうとした俺にとっては迷惑極まりない。しかし俺はそこではっとする。
「叙事って女児と通づるところがあるよな」
「いきなりなんだよ」
隣のピンクから不審者を見るような目で見られるが、心外だ。俺はただ思ったことを言ったまでだが。
「女の子は男よりも精神的に早く成熟するだろ?だから小さな子もまるで30年生きてきOLみたいな事を言うんだよ。でも俺の愛する青少年はだな……」
「あぁはいはい分かったよ」
白新は俺の話をぞんざいにあしらうとはぁとため息をつく。
まぁさすがにふざけているのは認めるが、ノリの悪い奴だ。こちらもわざとらしく眉を吊り上げ白新の襟へと手を伸ばした。
「俺はなぁ、最初からお前の身長が今の4分の3ぐらいならこんな妄想することもなかったんだよ!」
「だからなんで俺が文句を言われなきゃなんないんだよ!」
「小さかったら俺はもっとお前に優しくした!」
襟を掴み揺さぶれば、白新も今となっては同じように反撃を仕掛けてくる。お互いに襟元をつかんだせいで近くなる距離に、やっぱりこいつはでかいと再確認。
……パチンッ。
唐突に響いた音に何かとそちらへ視線を向ければ、越後が膝の上の丼に箸をおき、器用に手を合わせていた。
越後はおもむろに雪を見、俺たちへと向き直る。そして真剣な表情でこちらを向いたかと思うと一言。
「よし、雪合戦するぞ」
「はっ?」
予想外の言葉にこちらはぽかんとしてしまう。
なんかもっと大事なことを言うのかと思ったらそんなことかよ!
「えー昨日もやったじゃん」
「どうせやることないし、ただ話しているよりは有意義だろ」
丼を脇に置きつつゆっくりと立ち上がれば、俺の襟元を掴む白新の手をしっかりと握り、ベンチから立ち上がるよう示唆する。
おおっと、これは……。
「ってことで、白新は防壁作りよろしく」
「はあっ!?なんで俺なんだよ!」
「一番年下だからに決まってるだろ。ほら早く」
越後がしっしと追い払うように手を払えば、白新はぶつぶつと文句を言いながらもそれ以上は逆らわずに大人しく外へと歩いていく。
なんだよ。俺の時は手を出してでも抗議してくるくせにずいぶんと大人しいもんだ。
白新が漸く作業に取りかかるのを見て、隣の人物もベンチにまた腰かける。そしてこの空気の不穏さに俺もあちらへ行きたいと思ったが、そうなったらこいつはもっと機嫌が悪くなると予想して早々にその案は破棄する。
「なぁ……。越後、お前怒ってる?」
「別に」
話しかけてみれば淡々としたいつもの物言いに安心するが、相変わらず視線は白新を捉えたままだ。
「信越は俺を怒らせたかったの?」
「いや、別にそんなわけじゃねーけど」
そう言いながらこちらを向いた視線は、やはりいつもと変わらず感情が読めない。と思ったのだが。
危ない危ない。口ではああ言っているが、越後は絶対に怒ってはいなくとも苛ついているのは確かだ。
こいつの瞳を見てそう確信する。視線が合ったのは一瞬で、すぐにまた前を向いてしまったが、何年もこいつと一緒にいたんだからそのぐらいは分かる。
そしてその苛ついている理由も一つ。
先程俺が白新に近距離で掴みかかってたから。
こいつが白新にどんな感情を持っているかはもう知っている。でもこいつの目線を見てれば分かるだろうに、白新は初めと変わらない笑顔で越後に接する。まぁこれからどうしたいかはこいつら次第だから俺は関係ないけど。
「おーいえちごー!終わったぞー!」
「あぁ、今行く」
こちらへと大きく手を振る白新に越後は軽く手をあげて答える。しかし、そのままゆっくりと立ち上がるとそうだ、とこちらへ振り返った。
「信越。俺を怒らせたいなら、奪うくらいのことをしないと」
「おい!二人とも早くしろよ!」
「……まぁ、譲る気なんてないけど」
これまた飄々とした言いぐさだが、笑みの含まれたその言葉に訳が分からなくなる。まぁそんなのはいつものことだけど。
髪をさらりと揺らしながら白新へ分かったよ!と一声かけるとそのままそちらへと歩いていく。その後ろ姿を見ながら深いため息をつく。俺をからかってるのか牽制したいのかは分からない。でも、そんなことをしなくてもお前から取ろうなんて思わねーよ。
越後とは長い付き合いだが、出会った頃あいつは俺たちといてもどこか距離をおいていた。一緒にいるが、心ここにあらずといった感じ。
「越後もいこーぜ」
それがいつの間にか全員でいるのが当たり前になっていた。それもこれも全部白新のお陰だなんてことは言われなくても分かっている。
そんな二人をどうやって離すんだっつーの。
遠くで白い雪原の中ピンクと緑がじゃれあうのが見える。変な疑いをかけられるのはごめんだが、あいつらが幸せそうならそれでいいかなんて思ってしまうんだ。