「やっと開業したね、スカイツリー」


この煩雑な都会で新たなランドマークとしてそびえ立つ電波塔。開業して何日か経ちようやくと落ち着いて来た頃、伊勢崎と日光は肩を並べるようにしてその風景をみつめていた。もう時刻は夕方を通り過ぎ空にはきらきらと輝く光が見え始める。
日光は、その風景に手をかざして見る隣に目を移す。まるでまぶしいといった風な格好はこいつの思いからか。目を細めて見るその姿は、誇らしげであり嬉しそうでもあり見てるこちらもそんな感情が湧き出る。



「これで喜んでんじゃねぇよ。大事なのはその後、だろ」


しかし素直に自分の感情をいい表せるほど俺はよくできていない。そう自覚してはいるものの案の定ひねくれた返答をしてしまう。


「そんなこと、分かってるよ。でもちょっとぐらいいいだろ」

少し拗ねるように返すと伊勢崎は空を仰ぐように見上げる。日光もそれに倣うようにして見上げれば、都会の光源に負けずに煌めく少しばかりの星。


「今日は七夕なんだよ日光。月も星もよくみえる……」
「七夕か……。そんなもん、ここんところ意識したことなかったな」


日々の業務に追われ行事なんて誰かが言いださなければまず気づくことなんてない。バレンタインなどは周りからのうざったいアプローチで嫌でも思い出されるが、七夕なんてものはここ最近気にしたこともなかった。


「そうだねー。あ、じゃあせっかくだしお願いでもしようかな」

目を瞑って考えだす伊勢崎をみやる。お願いとはなんだろうか、始めにスカイツリーのことが頭によぎったがこいつのことだ、スカイツリーに関しては成功させるものであって願う対象ではないはずだ。そもそも日光としてはこの日に願ったとしてもなんにも変わらないと思っている。もし織姫と彦星がいたとしても年に一度の再会の日にこんな人様の願いなんて叶えている暇なんてないはずだ。
そう感じながらもこの日光にとってはこの気のおけない相方の想像するところを考える。それ以外だとしたら……



「ずっと一緒に走れますように、なんて野暮なお願いするんじゃねぇぞ」

伊勢崎の思考を予測し若干の期待を上乗せした結果。導きだした答えを呟けば、びくりと跳ねる肩と驚きに見開かれた瞳。
少しロマンチックなことが好きなこいつのことだ。それは図星だったようで、さっと頬に赤みがさす。

「な、なんでだよっ!俺が何を願おうが俺の勝手だろ!!」

恥ずかしいのなら隠せばいいものを。素直に自分の気持ちを伝えられるのは羨ましいところでもあるが欠点でもある。
たとえば俺みたいな、好きなやつにはからかって意地悪したい、なんていう性質には。
にやっと口角をあげれば身の危険を感じたのか反対側へと後ずさりする伊勢崎。
こいつは本当に馬鹿だ。そしてだから、そんなもんは願わなくたって……


「俺が叶えてやるよ」


唇を合わせ息を奪う。ほんの一瞬の出来事。でもそれがとても甘く感じて、噛み付くように重ねる。 すると着ているつなぎが引っ張られる感覚。薄く目をあければ、伊勢崎が俺のつなぎをぎゅっとつかんだ姿。
でもそれは一瞬で。思わずといったようにはっとした顔を見たところ本人も無意識だったようだが。

「ふっ。もっと、てか?」

生憎俺は優しくないんだ。
唇を離せば苦しそうな息づかい。今の自分にはどんな些細な仕草でも煽る要素でしかない。
そのまま目に熱がこもるのを感じながら熟れたような赤い唇にかぶりついた。




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