「東西のわからずやっ!」

「あ!ちょっ……!!」

長いホームをひたすら走る走る。
このどうしようもなくいらだった感情を抑えきれない。
何も考えたくなくて、僕はがむしゃらに走った。




「じゃあ、またなー!」
「うん。気をつけてね」

丸の内とお昼をすませ、午後の業務へと戻る。たまには新しい駅で過ごすのもいいよね。と溜池山王に来てみたところ銀座の読みは外れなかったようで、たくさんの気に入った店を発見した。そのことに少し気分も軽くなって歩いていれば、前方より見知った顔。相手もこちらを見つけるやいなや全速力で駆け寄って来た。




「ぎんざー!!」
「南北。そんなにあわててどうしたんだい?」
いつもはまとまった髪も振り乱れているところを見ると、銀座に会うまでにも走っていたのか。
溜池山王が唯一の同じ乗換駅である南北を見やれば銀座の前で立ち止まる。


「はぁ……っ。ねぇ、銀座、はこれから、業務に戻るの?」
「うん、そのつもりだよ」
息を整えながらもこちらを伺う南北。そう問いかける彼は表面上はいつも通りを気取っているようだけれど、さきほどの行動といい何かあったのは明白だ。その証拠にこちらが戻ると言ったら目を伏せてしまった。


「……だけど、何か話したいことがあるなら聞いてあげなくもないよ」
「え……!」
「でも、少しだけだよ?」
そういえば、彼は嬉しそうに顔を上下させた。











「東西が酷いんだ!」

その一言から始まった南北の話はほとんどが東西への日頃の愚痴で構成されていた。日頃からの東西からの小言が溜まりにたまってこのような状態になってしまったのだろうか。しかし、東西は南北が20年を過ぎるにあたり昔のようなお咎めはしないと言っていたはずだが。
手身近なベンチに座ってくつろぎながら、銀座は南北の愚痴を聞き流す。



「ーーーーー、だから東西はB系なんだよっ!!」
「うん。それは関係ないよね」
そう言いきった南北の顔を伺えば少しはすっきりしたような表情。だが、まだ機嫌が直らない様子に埒が明かないと感じた銀座は単刀直入に聞いてみることにした。


「じゃあ、結局何が理由なんだい?」
「え?」
「東西への恨みつらみは分かったよ。だけど今聞いている限りじゃ、本当に言いたいことは違うんでしょ?」
「……」
確かに東西への不満はあるのだと思う。しかし、その裏には何かに不安になって焦っているような、そんなことが感じられて問いてみれば、南北はびくりと肩を震わせた。


「別に東西に言ったりしないから。言ってごらん?」
「東西が……」
言いにくいのか、目を伏せながらぼそりと話しだす南北。

「東西が、もう大人なんだから俺はなんにも余計なことはいわねーよって」
「それで喧嘩したの?」
「だって、東西は僕のこと、どーでもいいみたいに言うんだっ!」
「あれ?色々言われるのは嫌だって今散々言ってたじゃない」
「嫌だよ!だけど何も言ってくれなくなってほっとかれるほうが……なんかムカつく」
子供のように喚きながらも最後には落ち着いたのか仏頂面にとどめて終わる。
まったく、東西も子育てを間違えたよね。南北もまだまだ子供なんだから。
でもさすがに自分が理不尽だってことは分かってるみたいだし……。



「はぁ……しょうがないな。こんなことしてあげるのは今日だけだよ」
「……?」
ベンチから一歩前に立ち、手を南北へと差し出せば困惑した表情。
いつもは東西にまかせっぱなしだし、たまには甘やかしてもいいよね。


「ほら、こんなところで愚図ってないで行くよ」
「行くって……どこに?」
「もちろん東西のところだよ。一人が行きづらいのなら一緒にいってあげる。ほら、どうするの?」
「……いく」








銀座はすごい。
優しそうにみえる、というかまぁ実際優しいけれど、それは甘やかすというのではなくきちんと使うところを分かっているもので。
こうやって手を引っ張られてなんていつぶりだろう。
連れられるまま歩いていれば銀座の歩みが突然止まる。なんだと顔を前方へ向ければそこには目的の人物。


「なっ……!なんで東西がここにいるんだよっ!?」
東西はここを通っていないはずだ。なのになんで?
そんな驚きも意に介さないように、東西がため息を吐きながら壁から背を離す。


「どっかのお方から、早く愚図った子供を引き取りにこい。なんて言われたら来るしかねーだろ」
頭をがしがし掻きながらこちらへ来る東西の目線をたどれば、にこにことわらう銀座の姿。


「嫌だな。僕は、どうしようもない子供を迎えに来てね。って言ったつもりだけど」
「そっちのが酷いだろ」
いつの間にそんなやり取りをしてたの?なんて疑問もあるけれど、分かるのはその子供というのが僕だっていうこと。
まったく!酷いのはどっちもだよ!!

「銀座までそんなこと!」
「ふふ。冗談だよ。ほら、そんなこと言ってないで」
そう言って背を軽く押されれば前に一歩。
しかし、いざ対面すると言おうと思っていたことも口の中にとどまってしまう。素直に正面を見ることも叶わず、斜め下に視線を向ける。
このままじゃいけないのも分かってる。だけど--

「ったく、おら!しゃきっとしろ」
「いった!急になにするんだよ!!」
「お前がそんなしけた面してるからだ」
デコピンを受けた額を手で押さえて抗議する。そして、そのまま東西を見やればしょうがないな、っていうような笑顔に対面。そんないつも通りの東西を見ていたらこっちが気にしているのも馬鹿らしくなってきて。


「東西!」
そう呼べばやっぱりいつもみたいに呆れたような優しい表情で先を促すように待っててくれる。


「さっきは……ごめん」
「なんだ、お前もやれば素直に謝れんじゃねぇか」
素直に謝ったのは本当に気まぐれ。ただ、自分の気持ちに気づかせてくれた人がいたから、だけど。

「ふん。そんなこと言うならもう二度と謝んないから!」
「なんだよ。褒めてやってんだぞ?」
「そんなふうには聞こえない!」



行くぞ!という東西の声に促されるままついていく。
いつものように言い合いをしながら歩く道はとっても楽しい。さっきはくだらないことで喧嘩したけど、理由も今では曖昧だ。だから、どれだけ喧嘩したって、東西と離れるなんて考えたくもない。まぁ本人には絶対に言わないけどね!


ちらと後ろを伺えばそこにはもう銀座の姿はなく。
なぁんだ。せっかく銀座にもお礼を言ってあげようと思ったのに。
たまには素直に言うのもいいかな、なんて。



そんな気持ちにさせてくれた銀座には、後でおじいちゃん孝行をしてあげなきゃね!



銀座様の相談室 ファイルNo.2 NTの場合