深い理由なんてない。
ただなんとなく気がかりだったから。
そんな言い訳で自分の管轄外まで出向いてきた。
あいつの路線では栄えているといってもいい最北の駅。
てっきりホームか事務室にでもいるのかと思っていたので探すのに手間取ってしまった。
線路脇の放置された自転車等が散乱する高架線路の下でこいつは佇んでいる。
感が冴えていても悪いときというのはいただけない。
小さく鳴らした舌打ちをかき消すように歩幅を大きくした。
「そんなとこ見てたって首痛めるだけだぞじじい」
ごうっという音をたてる真上のコンクリートを見上げる伊勢崎はそんな俺の呼びかけを意にも介さず見続ける。
まぁ嫌な予感はしていたのだ。昨日の事故か、はたまた日頃の疲れか。何が原因かは分からないがこいつはたまに譜抜けた様子になる。
この前はいつだったろうか。いつもは伊勢崎でストレス発散しているような宇都宮が俺に電話をよこしてきたっていうことが面白くなくてよく憶えている。最近はそんなことないと思ったのにな。
そのまま同じように柵に寄りかかって煙草を取り出す。
忘れ物で手に入れた旧式のライターで火花を散らしながら火をうつす。一息ゆっくりと息を吐き出せばそれまでだんまりだった伊勢崎がやっと口を開いた。
「100年後はどうなってるんだろうな」
唐突な言葉に一瞬はっと鼻で笑いそうになったが、すんでのところで押さえておく。突拍子もないことを言うのはいつものことだ。
「なんだ、100年後にでもなんかあんのか」
「そんなのあるわけないじゃん」
こっちがとりあえず話してやろうとすればまともな切り返しが返ってきていらっとする。だがまぁいいだろう。
「じゃあいきなりそんなこと言ってどうしたんだよ」
「これだよ」
これといいながら目線はそのまま動かない。何のことだと一応上を見てみるがそこにあるのは高架線路のみ。
だからなんだと口を開こうとすればそれは先に遮られた。
「俺が出来たときにはこんな奴が出てくるなんて全く思わなかった」
真っ直ぐと見つめる先は今日本で最速の高速鉄道。
「こんな若造が今じゃ上官だっていって国鉄のやつらを下につけてるんだ」
あいつらの、俺たちの今まではなんだったんだろうなぁ。
こいつの脳裏にはいま何が浮かんでいるんだろうか。
俺たちの先頭をきって歩いていくこいつには何か俺の思いもよらないことを考えているのかもしれない。
だけれど、そんなの関係ねぇな。
伊勢崎の頭に手を伸ばし,強引にこちらを向かせる。
その唖然と見開かれた瞳をまっすぐに見つめた。
「俺がいるだろ」
俺たちが出会ったあのときからこれから先だって、俺がお前の隣にいることは決定事項なんだよ。
他にどんなやつが出てきたって構わない。俺たちの邪魔なんかさせない。
口に出しては絶対に言わない言葉。
だがその一言で十分だ。
「あぁ……そうだな!」
口許がだんだんと綻んでいく様子にこちらもほっと肩の力が抜ける。
「そんな先のことよりお前はあの電波塔で儲けることを考えろ」
「そんなこといってお前の方がなんにも考えてないだろ」
「俺は交渉役だからいいんだよ」
大丈夫なんて口先だけの言葉より。